仕事帰りにバーン=ジョーンズ展へ行く
仕事帰りに三菱一号館で開催中のバーン=ジョーンズ展を観る。
夕方6時以降は割引という粋なはからいの恩恵にあずかり、1000円也を支払う。
パーン=ジョーンズは遅れて来たラファエル前派といってもPRB(Pre-Raphaelite Brotherhood)ではなかったし、画風も彼らより力強く、画題はより多様で独自性が強い。ロンドンでラファエル前派に触れて夢中になっていた頃は、私はミレーやロセッティを好みバーン=ジョーンズは少し敬遠していた。
それから長い時間がたって、彼に興味がわいたのはウィリアム・モリスのアーツ・アンド・クラフツとの絡みと漱石の蔵書に彼の画集があったことからだ。どちらも話せば長くなるので、今回の展覧会に話題を限ろう。
三菱一号館の構造をうまく使って物語やテーマ別にまとめられた構成により、バーン=ジョーンズの全体像を自然につかんでいくことができる。タペストリや世界で最も美しい本、チョーサー著作集(中身は図録を買うと見ることができる、あきれるほど美しい)、有名な風刺的自画像まで集められていてかなり意欲的な展示になっている。
運命の車輪、ペルセウスとアンドロメダ、いばら姫の連作など見所は沢山あるが、日本初公開のピグマリオンと彫像の連作が非常に印象に残った。かつて見たことのないほど美しい女性像を彫り上げた彫刻家ピグマリオンは自分の作品に恋をする。やがて女神の力で彫像は生命を得てピグマリオンと結ばれるというエピソードを4枚の連作にしたものだが、一枚目の恋心という作品がとても良い。
顎に手をあててアトリエに佇むピグマリオンはこの時点では彫像を彫り上げていない。だから彼が恋焦がれているのは自分の心の中だけにある究極の美だ。静謐な画面が自分もかつて持っていた存在しないものに対する憧れを思い出させてくれるような気がした。
ロセッティはバーン=ジョーンズを夢の国に住む一番素敵な若者の一人と評したが、実際彼は心の中に自分だけの夢の国を持っていたのだと思う。そして我々にとっても誰にも踏み込めない自分の世界を大切に育てることが大事なんじゃないだろうか。それが内側からその人を照らし、生命に力を与える。
そんなことを思った展覧会だった。
お勧めします。