代官山日乗

自覚さえすればどんな生活にだって深い意味が出来る。

セーヌ左岸の恋 / エド・ヴァン・デル・エルスケン

Love on the Left Bank

LOVE ON THE LEFT BANK / Ed van der Elsken

 

エルスケンを知ったのは高校時代に出会った「巴里時代」という写真集だった。

セーヌ左岸の恋を再構成したものだ。

その中にエルスケンのセルフポートレートがあった。

 

私は知らない土地で暮らすことに憧れ、東京に出る算段を巡らせていたがそれがどういうことを意味するのか全然わからずにいた。家族のしがらみや友人たちとの関係、ガールフレンドはどうするのか、続いて行く日常と将来のプランは全くつながりを持たなかった。いつか時がくればこの場所を離れる、ただ単純にそう思っていた。

 

ローライコードのフードを支え、少し不安げなエルスケンの写真を見て何かが腑に落ちたような気がした。つまり、自分は孤独になるのだ。

 

その思いは私に一種の陶酔をもたらした。自分一人の力で新しい世界に向かっていく、そう思うと血がたぎるような気分になった。

 

東京に持っていった少ない荷物の中にエルスケンの写真集が何冊か入っていた。当時はリプロポートが続けて彼の作品を出版していて、私は出る度に購入した。中野の何もない部屋で繰り返しページをめくり、やがて私にとってパリに行くことは自明のことになっていった。

 

一冊の写真集、一枚の写真との出会いがどれほどの力を持つのかを私は知っている。巴里時代は手元を離れてしまったが、セーヌ左岸の恋を手に入れ時折眺めている。そして今でも同じ写真でしばらく目を留めてしまうのだ。

 

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